染五郎、新作歌舞伎『幻想神空海』に挑む!
四月大歌舞伎「夜の部」は、夢枕獏原作の新作歌舞伎が上演されています。

最初の演目『彦山権現誓助劔:杉坂墓所/毛谷村』
これは浄瑠璃の十一段からなる物語ですが、歌舞伎では九段目の「毛谷村」だけが上演されることが多いです。今回は、「杉坂墓所」からの上演で毛谷村六助が置かれた状況がわかりやすくなりました。
片岡仁左衛門は、まさに今が脂が乗り切った円熟期。義理、人情に厚い六助役をさらりと自然に演じています。仁左衛門はただ出て来るだけで、舞台が華やかでパッと明るくなります。
『毛谷村』の見どころは、お園です。「女武道」の勇ましさと、六助が許嫁と知った後の女らしさ、可愛らしさの切り替えが見物です。このお園は仁左衛門の長男・孝太郎が勤めています。親子で演じる舞台は、やり易さとやり難さがあると思いますが、孝太郎も頑張っています。勇ましさと女らしさの切り替えは、少し極端でベタベタした印象がありまだまだな感じもします。もっと練れてくると孝太郎に合っている役柄だと思います。
次の演目が期待の新作『幻想神空海』です。新歌舞伎座開場式の時の夢枕獏の新作歌舞伎『陰陽師』がとっても良かったので、期待をしていました。
今回の主役も市川染五郎が、勤めています。出ずっぱりの上、台詞も多くて長く、いつもながらに大変だなぁ〜と思いながら観ていました。
空海を勤める染五郎と橘逸勢役の尾上松也のコンビで繰り広げられる不思議な世界は、結構面白いのですが、新作の難しさも露呈しています。主役は、空海なのか? 楊貴妃なのか? 登場人物の関係が、よくわからなかったり、実際登場しない人物が、物語上重要だったりと込み入った話しになっています。もっと的を絞って、簡潔にできるところは思い切り省略した方が良いと思います。
2時間20分の演目を休憩なしに上演されると、さすがに疲れます。
新作歌舞伎は、楽しみの一つですがもっと工夫が必要なのも確かです。どれだけの新作が後世に残るかは、その作品をより良いものに育てていくことが不可欠です。人気演目として頻繁に上演される作品は、長い年月をかけて練り上げ、育ててきた努力の賜物です。
夢枕獏の作品は、結構歌舞伎に向いているとは思います。幻想的な雰囲気や妖ものなどは、歌舞伎の得意技なので、この分野の新作はこれからも力を入れていって欲しいと願っています。もう一度『陰陽師』をやってほしいとも思いますし、「陰陽師」の続編を作ってほしいなと思う気持ちも強くあります。
最近、オペラを観るようになって思ったのは、時代背景を変えたり、いろいろな演出家を起用して新演出による舞台にチャレンジしてほしいなと思いました。亡くなった中村勘三郎が、野田英樹や串田和美の演出で、大胆で、面白い歌舞伎を魅せてくれたような、骨格の部分は変えないで演出による変革で新しいものを魅せてくれることも必要だと感じています。