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吉右衛門の「神霊矢口渡」



 今月は、国立劇場で「通し狂言 神霊矢口渡」を上演しています。

神霊矢口渡

 『神霊矢口渡』は、「太平記」に出てくる有名な新田義貞の子、義興が武蔵国六郷川(多摩川)の矢口渡で、舟底に穴を開けられて非業の最期を遂げたことを元にして作られた物語です。作者の福内鬼外(ペンネーム)とは、平賀源内です。原作は五段からなりますが、今回は序幕「東海道焼餅坂の場」、二幕目「由良兵庫之助新邸の場」、三幕目「生麦村道念庵室の場」、大詰「頓兵衛住家の場」の四幕構成になっています。前半の三幕は百年ぶりの上演となります。

 当代中村吉右衛門が、初代吉右衛門が演じた由良兵庫之助に百年ぶりに挑むことになります。吉右衛門の見せ場は、敵側についたと見せた由良兵庫之助が一子を身代わりにして若君を助けるところです。これは、『一谷嫩軍紀:熊谷陣屋』の直実であり、『菅原伝授手習鑑:寺子屋』の松王であり、時代・人物の設定が違うだけでお家を守るため、我が子を犠牲にして忠誠を貫くというものです。これは、武士の世では美徳とされた行為で、親としての苦悩を演じる役者の演技が共感をよび観客の心に訴える感動を与えます。吉右衛門の重厚な肚芸は、このような役にピッタリです。しかし、こういう感覚は現代人にはちょっと理解できないものになってきているのも確かです。そのため時代物の歌舞伎演目が、重くかったるく感じるのも否めません。

 歌舞伎でよく上演される『矢口渡』は「頓兵衛住家の場」で、義興の弟・義岑夫妻が矢口の渡にきて渡守頓兵衛の家に宿を求めるが、頓兵衛(中村歌六)は義興を殺害した悪党の一味で義岑夫妻を殺そうとします。しかし、義岑に一目惚れしたこの家のお舟(中村芝雀)が身代わりになって二人を助けます。
 さすがよく上演されるだけあって、この幕は面白いです。父親・頓兵衛の徹底した悪党ぶりと、お舟の可愛らしい娘ながら情熱に命をかける激しさとの対比が鮮やかで、舞台を盛り上げ時代物の中にあって現代人にも共感できる感情です。配役も素晴らしく、欲にかられた悪玉の父・頓兵衛役の歌六、若い娘の可愛さと情熱を合わせ持つお舟の芝雀が光っています。また、お舟に惚れる六蔵を中村種之助(又五郎の次男)が演じていますが、愛嬌のある小悪党が良く合っていて目を引きます。

 通し狂言として上演してくれることによって物語の背景がわかるようになりますが、やはり百年も上演されないのは、「それなり」に意味があると思いました。



国立劇場二階 
 「国立劇場2階の景色」日本画の名画がずらりと並んでいます。











テーマ : 歌舞伎
ジャンル : 学問・文化・芸術

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 自然観察と歌舞伎が大好きな夫婦でつくっているブログです。生田緑地と伊豆海洋公園をフィールドにネイチャーフォトを楽しんでます。

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