通し狂言 菅原伝授手習鑑の続き
歌舞伎座で開催されている「三月大歌舞伎」は、昼・夜通し狂言で『菅原伝授手習鑑』を上演しています。昼の部は、仁左衛門の菅原道真が素晴らしかったので、この大作を花形歌舞伎役者を中心にした夜の部の配役が楽しみです。

『車引(くるまびき)』では、愛之助の梅王丸、染五郎の松王丸、菊之助の桜丸が、若々しく元気があり、様式美が一層爽やかな新鮮なものに感じられました。役柄に近い年齢の役者が演じるのも良いものです。
『賀の祝』は、歌舞伎ではあまり上演されることがありません。昨年、文楽の竹本住大夫さん引退公演で二度観た『桜丸切腹の段』と同じ場面で、事前に観ていたおかげで、文楽との違いも比較できとても良くわかりました。
菊之助の桜丸は姿形もよくとても巧いのですが、切腹するまでの感情移入に物足りなさを感じました。色々な思いを飲み込んだ苦悩が感じられません。ちょっと残念な気がします。
一方、桜丸の妻・八重を演じた梅枝(中村時蔵の長男)は、夫に対する愛情も細やかで、感情の揺れを見事に表現しています。この梅枝と桜丸の父を演じた左團次の芝居の巧さで桜丸切腹の段が盛り上がりました。
『寺子屋』は、毎年必ず上演される人気作品です。今回は、松王丸を染五郎、武部源蔵を松緑が演じていますが、役柄、任から言って逆の方が良かった気がします。松緑の源蔵は、ちょっと固くて凄味があり過ぎ、お師匠さんとしての弟子たちへの愛情に欠けた印象があります。松王丸の染五郎は、『勧進帳』の弁慶をガンバって演じていたときのような頑張り感が前面に出過ぎています。声の出し方にもまだまだ無理があり、大きく魅せようとする力みが勝っていて、染五郎の良さが消されているようです。
源蔵の妻・戸浪の壱太郎(中村鴈治郎の長男)は、なかなかいい味を出していました。昼の部の赤姫よりも女房役の方が合っているのかもしれません。
一番良かったのは、松王丸の妻・千代を演じた孝太郎(仁左衛門の長男)です。女房役が年を追うごとに良くなってきています。間の取り方、声の抑揚、感情表現などに光るものを感じます。花形役者の中にあって、年長者として引き締まった舞台を作り上げています。
「寺子屋」は、我が子を犠牲にして菅原道真の子を助けるという、涙を誘うお話ですが、外国人にも受けるようで多くの外国人が涙を流して魅入っていました。動きの少ない長い芝居で、途中で寝ていたり帰ってしまう日本人もいる芝居です。日本に来て歌舞伎を観に来る外国人の文化芸術に対する深い理解と思いを感じました。
昼・夜の部を通し狂言で上演する場合は、同じ役者が同じ役を演じてくれると良いなぁ〜と思います。染五郎は、昼の部で源蔵を演じ、夜の部では松王丸になってしまうので、余計に違和感があったのかもしれません。
三月大歌舞伎 歌舞伎座 夜の部
通し狂言 菅原伝授手習鑑
四幕目 車引
五幕目 賀の祝
六幕目 寺子屋 寺入りよりいろは送りまで