あっぱれ! 中村吉右衛門
先日の六月大歌舞伎「夜の部」があまりにも素晴らしかったので、一等席を購入して再度やって来ました。

今回の座席はなんと中央ブロック五列目。こんなに近いです ♪
後援会や企業が持っている座席がときどき売り出されることがあるので、行きたいとなったらマメにチェックすることが重要です。

『名月八幡祭」: 今まで観てきた歌舞伎の中で、最高傑作と断言できる舞台です。
あらすじは、越後の実直な商人・新助(中村吉右衛門)が、深川芸者の美代吉(中村芝雀)に惚れ込み裏切られ、絶望の末狂乱し斬り殺してしまうというお話です。
深川の富岡八幡宮大祭の前後の江戸下町の風情を描きこんでいます。自由奔放に生きる魅力的な芸者美代吉とその情夫、純朴で実直な田舎商人新助との三角関係。新助が、恋に溺れ裏切られ狂気へと変貌していく様を実に見事に吉右衛門が演じています。吉右衛門の決して手抜きをしない真摯に打ち込むその姿に感動を覚えます。
吉右衛門以外は初役ということですが、配役一人一人が、役にはまって申し分のない完璧な仕上がりです。
また、舞台芸術の粋を集めた舞台演出は、これ以上のものはないと言って良いくらいです。深川沿いの裏座敷の粋な場面。川に見立てた舞台の上手から花道までを美代吉が猪牙舟で通りかかる風情は、その美しさに息をするのも忘れてしまいそうです。大詰めの刃傷沙汰、雷雨の場面では、稲光とともに本水の大雨が舞台上に降りしきり、錯乱状態の新助が振り回す刀が煌めく様は、圧巻としか言いようがありません。全てが終わり、夕立も上がった空に十五夜の月が上がってくる幕切れは、浮世絵の中をさまよっているような心地で深い余韻を残します。
一つ一つの場面が錦絵のようであり、各々の役者が今持てる力を出し切っている完璧な舞台です。これほど充実感のある満ち足りた気持ちになれる舞台に出逢えたことに幸せを感じます。
今まで歌舞伎も含め沢山の芝居を観てきましたが、これほどの舞台を魅せる歌舞伎の懐の深さに改めて驚嘆しました。出逢っていない素晴らしい演目がまだまだあるのかと思うとワクワクします。そして、やはり日本の現代演劇はまだまだ歌舞伎を超えられないなぁと実感しました。
一等席でもう一度観て本当に良かったです。
『名月八幡祭』
初演大正7年
主な配役 縮屋新助(中村吉右衛門)
芸者美代吉(中村芝雀)
船頭三次(中村錦之助)
魚惣(中村歌六)
藤岡慶十郎(中村又五郎)
お袋およし(中村京蔵)
※ 芝雀の大当たり役!このまま当たり役がいくつか産み出せれば雀右衛門襲名もありかも