11月歌舞伎座の大当たりは「井伊大老」!
三連休の中日「勤労感謝の日」は、快晴に恵まれ最高の行楽日和。午前中にもかかわらず歌舞伎座の地下「木挽町広場」はものすごい人で混み合っていて、ここも観光地なのだと改めて思い起こされました。とても観劇に来ているとは思われない人たちが、その大半だったからです。
歌舞伎座の正面玄関には、国旗がたなびいています。

十一月「吉例顔見世大歌舞伎」昼・夜の部で一番と言えるのは、『井伊大老』の中村吉右衛門です。
井伊直弼が桜田門外で暗殺される前夜の様子を中心に、直弼の人間性を描いたものです。
『井伊大老』は通常の歌舞伎とは異なり、どちらかと言えば現代劇に近いもので、歌舞伎特有の鳴りものや謡いがなく、見得をきることもなく、音も動きもないなかで科白だけで表現する難しい舞台です。
開国か攘夷かで国中が揺れている幕末期、開国を決断した大老井伊直弼は暗殺の危険にさらされています。自分の運命を知り、国の行く末を憂い、揺れ動く複雑な心の機微を吉右衛門は見事に演じています。たぶん現代の役者で、これほど内面を掘り下げた演技ができる人は吉右衛門をおいて他にはいないと思います。言葉の一つ一つに思いがこもり、ふと浮かぶ表情に抑えた感情に秘めた苦悩や迷いまでを表現できる吉右衛門の凄さを感じずにはいられません。
吉右衛門は、どんな役に対しても決して手を抜かない、全身全霊で打ち込む真摯な姿がいつも印象的です。
井伊大老という歴史上の人物を演じるにあたっても、それは吉右衛門自身の人間性や全人生をかけて、その人物になりきっていると感じます。観ている者の心を深く揺さぶり、鳥肌が立つような感動が与えられるのも、今まで演じたきた人のその人生を必死に生きようと努力してきた賜物なのでしょう。演じた役の数だけ、人生経験を積んできたのではないかと思います。
『井伊大老』を観終わったあと、井伊大老に対する考え方まで変えてしまう役者って・・・何?と思わず立ち止まってしまいました。吉右衛門の凄さを言葉で表す難しさをひしひしと感じています。
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